従業員の扶養親族のマイナンバーを収集する際に気をつけたいことを解説します

行政書士やまのそうま法務事務所のシンボルである八咫烏です
行政書士やまの法務事務所
行政書士やまのそうま法務事務所

お電話は

078-414-7417

お悩み(解決)よいよいな

メールでのお問い合わせは24時間受付中!

マイナンバーの収集の煩雑さでお困りではありませんか?
リスト、フロー等を取入れた手順マニュアルを作成して、マイナンバーの収集・管理からの負担を軽減しましょう。
お問い合わせはこちらから

また、相談顧問契約も1ヶ月契約から対応しております。
自社内で作成した規程類の最終確認などに是非、お役立てください。

マイナンバーの収集が困難な場合

事業主・団体において、マイナンバー取扱事務は避けて通ることはできません。
そしてそれには、従業員等の協力が欠かせないことは、言うまでもありません。
なんにしても、まずはマイナンバーの収集業務と本人確認が必要だからです。
しかしながら、従業員やその扶養親族、あるいは取引先や株主の協力が得られず、マイナンバーの提供を拒まれてしまった場合は、どうするべきでしょうか。 ここでは、そのような自体に陥ってしまった場合の対処法や、予防策について説明していきます。

マイナンバーの取扱いについて、きちんとした説明をしましょう

従業員等の協力が得られない理由について、その原因は幾つか考えることができます。
その中で、最も多いと予想されるのが「従業員らのマイナンバー制度に対する理解が深まっていない」という理由です。

「マイナンバー制度がどういうものか分からないが、漠然と不安である」
「最近、個人情報の流出が多くて不安だ」
「自分の勤め先のマイナンバーの管理がどうなっているか分からない」

国の機関においてでさえ、情報漏えいが生じてしまう昨今、非常に重要な情報であるマイナンバーに対して不安が先行するのは、当然のことです。
こうした不安が生じる原因の多くは、情報不足に原因を求めることができます。
特に、自らの就業先での安全管理措置の状況が判らないから不安である、という場合は、事業者・団体において、きちんとした体制を整え、理解を求めていく他ありません。

また、外部の人間である取引先や、内部ではあっても実務には関わってこない株主にとっては、事業者・団体においてどのようにマイナンバーの安全管理を行っているのかについて、情報がない状態が普通です。
そうした自体を避けるためにも、安全管理措置において作成する基本方針を公開しておくことや、資料等による説明を積極的に行っていく必要があるのです。

番号法において、マイナンバー取扱事務は、事業者・団体にとっては義務的なものです。
しかし、従業員等においては、マイナンバーの提供を義務付ける規定はありません。
もちろん、提供を拒んだことを理由に罰則が科せられることはありません。
ですから、事業者・団体においては自らの業務を行うために必要なマイナンバーの収集について、従業員等にしっかりと説明し、理解と信頼を得ていく必要があるのです。
大変な手間であることは確かですが、今後はそういう対応が求められているのです。
そのためにも、しっかりと対策を講じておかなければならないのです。

マイナンバーの受取拒否、提供拒否を考えている方へ

次ページで「マイナンバーの通知を拒否しても問題はない、か?」についても解説をしています。
お困りの方はご参照ください。

それでもマイナンバーの提供・本人確認を断られてしまった場合

きちんと内部での安全管理措置を行い、そのことを説明し、再三督促をしたにもかかわらず、自身の政治的な信条その他理由により、マイナンバーの提供及び本人確認を拒まれてしまった場合は、どのように対応すべきでしょうか。

まず、内閣官房における「よくある質問」では、次のように回答されています。
Q4-2-5
税や社会保障の関係書類へのマイナンバー(個人番号)の記載にあたり、事業者は従業員等からマイナンバーを取得する必要がありますが、その際、従業員等がマイナンバーの提供を拒んだ場合、どうすれば良いですか
A4-2-5
社会保障や税の決められた書類にマイナンバーを記載することは、法令で定められた義務であることを周知し、提供を求めてください。それでも提供が受けられないときは、書類の提出先の機関の指示に従ってください。

上記によれば、どうしても従業員等の協力が得られなかった場合は、書類の提出先である機関の指示に従うべきである旨が、回答されています。
このことから、どうしても従業員等の協力を得ることができず、マイナンバーの提供及び本人確認が受けられなかった場合、まずは、当該取扱事務によって作成された書類の提出先の機関への相談が予定されていると考えることができます。

2015年10月9日追記による訂正

2015年10月5日に改定された特定個人情報保護委員会のQ&Aによると、マイナンバーの提供を断られてしまった場合について、以下のように回答されています。

Q4-6
従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか
A4-6
法定調書作成などに際し、個人番号の提供を受けられない場合でも、安易に個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番 号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
経過等の記録がなければ、個人番号の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いしま す。
なお、法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号を記載することはできませんので、個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません(国税庁ホームページ「国税分野におけるFAQ」(Q2-10)参照)。(平成27年10月追加)

上記の回答により、提供拒否があった場合、まずは相手方に協力に応じるよう説明し、個人番号関連事務実施者としての義務を果たさなければなりません。
また、それらの説明や説得等の経過を記録及び保存し、単なる義務違反でないことを明確にしておくことが重要になってきます。

追記訂正、ここまで

もちろん、相談においては「事業者・団体において手を尽くした」ことをきちんと説明しなければなりません。
(単に、記載義務を怠ったわけではないことを証明する必要があります)
そのためには、収集にあたっての説明、拒否の経緯をきちんと記録しておく必要があるでしょう。
マイナンバーの安全管理という側面からも、手続の経過を記録・保存しておくことは重要です。
また、単に一度や二度の督促では収集のために尽力したと認められない可能性もあります。
なるべく余裕を持って、数度にわたる説明と督促を行なってください。

マイナンバー提供の経過を記録する方法

この手法については、従業員等と、取引先、株主とで分けて考えていくべきでしょう。
そもそも、説明、説得できる機会が全く違うため、同様に扱うことは困難なためです。

従業員とその扶養親族について

基本的には、就業規則や取扱規程等でその旨を規定しておき、対応することになるでしょう。
雇用契約締結時に、提出書類として要求することを画一的に定める、定期的にマイナンバーについての研修を行い、その度に不提供者に対して提供を求めるなど、説明と提供の督促を定期的に行っていく制度・体制を構築していくことが、重要となります。
それはアルバイトやパートタイマーでも変わりはありません。
ですが、勤務が不定期であったり短期である分、マイナンバーの収集が難しくなることが考えられます。
その場合は、労働契約締結の際にマイナンバーの意義、利用目的を伝え、提供するよう求める書面への署名をしてもらいましょう。

少なくとも現時点で就業している従業員に対しては、2015年10月以降から提供の求めが可能です。
(もちろんその場合、提供の求めを行った時点で、安全管理措置が完成していることが必要です)
そして、税務書類での記載が要求されるのは、一般には2017年1月末です。
その間に、合理的な期間にわたって提供の督促を行なっていたという記録を残すためには、安全管理措置をいち早く構築しなければなりません。

取引先について

一口に取引先といっても、業種は様々な上に、取引額の関係上、マイナンバーの収集が認められていない場合もあるでしょう。
そのため、まずはマイナンバー収集の必要な取引先リストを作成します。
その上で、書面での利用目的の通知、必要であれば資料の提供を経て、その結果をリストに記入しておきましょう。
収取編でも解説しましたが、取引先のマイナンバーの収集可能時点は、契約時であると解されています。
ですので、利用目的の通知や資料の提供は、それ以前に行っておくと、スムーズに進むでしょう。
なお、この場合の利用目的は「支払調書作成事務」となります。

株主等について

株主等のマイナンバー提供の拒否が問題になるのは、非上場会社のみとなります。
(上場会社の場合は、証券保管振替機構を通じて提供を受けることとなります)
非上場会社が株主等のマイナンバーの提供を受ける場合は、2016年1月以降に、株主総会通知を送付する際に利用目的及び安全管理措置の概要を記載した資料を送付して求める体制を整えておきましょう。
また、株主総会での説明を行い、議事録に記録を残しておくのも有効な手段です。
その他、郵送や電子的送付方法でのマイナンバー提供の受け入れ方法を準備して、それらの方法によるよう、通知したことを記録に残しておきましょう。
なお、直接受け取らない場合の本人確認手段には、注意してください。

事業者・団体の内部規定で強制することは可能か

事業者・団体の運営者の皆さまの中には、従業員等のマイナンバー提出を就業規則等で義務付けて、違反の際には懲戒処分が可能となるようにしたいとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
懲戒の内容、理由については労働契約法上に定めがあり、同法は第15条で次のように規定しています。

労働契約法第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

先に述べたように、番号法においては、従業員等にはマイナンバーの提出義務は認められておりません。
もちろん、提出を拒んだことを理由とする罰則もありませんし、何よりマイナンバーをはじめとする特定個人情報が非常に重要でプライバシーに関わるものであることを鑑みると、その不提供を理由として懲戒を行うことは、社会通念上相当でないとみなされる可能性が十分にあります。
それが従業員本人ではなく、その扶養親族のものであれば尚更、不提出を理由に懲戒を行うことは酷なことでしょう。
そもそも、制度設計によって従業員が事業者・団体の代理人となって扶養親族のマイナンバーを収集する場合などは、従業員に対して、扶養家族のマイナンバーについて、提出責任を追及すること自体が不適当だと言えるでしょう。
これについて詳細は「扶養親族のマイナンバーを収集する場合」をご参照ください。
また、取引先には内部規定は無関係ですから、これによって提供を促すこともできません。

そもそも、マイナンバー記載が困難な場合は提出先の機関の指示に従うようにという運用がなされる以上、事業者・団体において懲戒という「強い」手段を用いてまで、マイナンバーの収集を強制することが適切であるのか、という問題もあります。
この運用が今後、どのような形で実現されるかにもよりますが、現時点でマイナンバー提出拒否を懲戒事由であるとしたり、服務規律違反として懲戒の対象となりうるという体制を整えるように準備するのは、拙速ではないでしょうか。
それよりも、事業者・団体の内部で、従業員等が安心してマイナンバーを提供できる安全管理措置体制を整える、マイナンバーについての情報の周知や研修を行っていくという方向へ時間と手間をかけた方が、コストパフォーマンスが良いように思われます。

上記の理由から、マイナンバーの提出拒否自体を懲戒事由とすることは困難であるというのが弊所の見解です。
服務規律等で提供を義務付けたとしても、それを理由とする懲戒処分には、客観的合理的に見て相当の理由がある場合でないと、労働契約法15条により無効であるとされる可能性もあります。
懲戒によって提供を強制する場合には、慎重にならなければなりません。